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『 “時間ない” が口癖だったオフクロが死んだのは一昨年だ。 』

 

40分待っても、電車が来なかった。

久しぶりに夏らしい ウンザリした昼下がりに、

そのホームレスは、ペットボトルのビールの蓋をしきりにヒネリながら

やることなさすぎて ホウけるジャパニーズに話しかけてきた。

 

ときどきわからない単語があるので、

聞き返すとホームレスは面倒くさそうに、それに答えた。

 

答えを聞いたとて、いまひとつ意味もわからないので、

吸いかけの煙草を線路に投げて、欠伸をした。

 

おっさんが『乾杯』と呟いた。

 

無駄に長い野ざらしのホームには、自分ともう一人若いドイツ人がいて

ペットボトルビールを飲み終えたおっさんは、今度は瓶のビールの栓を抜きながら

暇そうに一人ビールを飲む彼にも、コミットしたのだった。

 

3人並んでベンチに座って、

何を待っているのかわからなくなるまで、電車を待った。

 

たまにかわされる会話の中、まだ単語を聞き返していて、

今はその若者が、よりわかりやすくその意味を説明した。

 

広げた左手に右手でコブシをバシバシ打ちつけて、にやっと呆れたような笑み。

ああ、セックスの話か。

 

おっさんは意味が伝わって嬉しかったのか、

自分も同んなじ動作をして、右手のコブシを大きく空に突き上げた。

 

 

『今年20になる息子が連れてきた嫁は、3人目だ』

 

 

電車は随分前の駅から遅れていたらしく、珍しく人でいっぱいだった。

妙な取り合わせの3人は、なんとなく乗客の視線を集めて、

電車は、意志と痛みのない動物みたいに、それら全部を東に運んだ。

 

おっさんは次の駅で降りて、同じ駅で降りる若者とはそのまま話をした。

父親のアコーディオンの話をしながら、若者は鞄から出したビールをこちらによこした。

 

ウ゛ァイツェンビアの底に溜まっているカスを効率よく沈殿させる技をならって

窓のソトを流れるいつもの古い街並を眺めながら、飲んだ。

 

電車の揺れは、そこで初めて役割を与えられたみたいに、酔いに倣う。

降りた駅のホームで、腰掛けて話をする。

 

ウイスキーの小瓶を2本買ってきた若者は、1つをこちらによこして

ゴミ箱にもたれかかって、嘔吐する真似をして笑う。

 

歯磨き粉みたいなアジのするウイスキーは 一瞬でなくなって

地下鉄の乗り口まで降りて、若者を見送った。

 

「またね。 ダンケ。」言うと

『おい、ダンケとかねえだろ。なにありがとうだよ。』

若者は怪訝な顔をして、口許を歪めた。

 

中央駅の出口からアトリエに向かって歩くと、まだ夏だった。

 

この目から見える全てには名前がなくて、

とうの昔からそこにあった景色は、まだ何にも与えも与えられもせず

ゆっくりと肥えた。

 

こころざしなんてものがなくなってしまうまで、繰り返したい。

ヘッドフォンのコードの先っちょがどこにも繋がっていないことを悲観するほど

複雑でも単純でもないような気がした。