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そのスクワッドには、でかいトンボのオブジェクトがへばりついていた。
破れたままの窓には “ANARCHIST”のテキストも眩しい、アジビラが貼ってあった。
ブザーを押すと、歯並びが悪くて人の良さそうなモヒカンと犬が出てくる。
6つに連なったブランケットなしのベッドの前で、
ホームレスが2人 『えへへ』 と、カセットテープを片していた。
オーガナイザーのサラが申し訳なさそうに
『私も知らなかったの。ヴィンの紹介なんだけど。』
と親戚のおばちゃんみたいな笑みを浮かべて、
結局、今夜はここに泊まる事になった。
言い訳のように連れてこられた高級レストランで
ザクロとホヲヅキののった、バースデーケーキみたいなサラダを食う。
んまい。
いやいや。
帰りに寄ったカフェで、
ブリュッセルでおまえらのライブを見た、というおっさんに話しかけられる。
ブラボーぴちがい日本人、みたいなことを言われて
控えめに図に乗る。
アルバムも出していないのにやにわにライブをしているので、
ブリュッセルのレコード屋もサヴトレのことを知っていた。
思い出してもう一度調子に乗る。
複雑な匂いのするスクワッドに帰ったのは夜中だったので
親切でジェントルな2人のホームレスのたてた2本のロウソクが、
薄暗い部屋の燈台だった。
ネズミの糞は払ったが、ネズミの小便がどうにも冷たいので
まだ暗い街を彷徨って、ひとり近くの安ホテルでコーヒーを飲んでいた。
『アーティスト イン トラッシュ だな』
と息巻き不満を爆発させていたカズさんは、
寝息を立てて、誰よりもぐっすり眠っていた。
冷えが鳴りやまないので
2杯目のコーヒーを注文しようとしたとき、
自分の体が自分のものではなくなった気がしてこわくなる。
“NO GOD , NO BOSS _ AGAINST ALL AUTHORIZATION”
“NO VOTE , ORGANIZE!”
冷たい朝にぼんやり眺めたスクワッドの壁では、
色の変わったポスターがフレイミッシュで訴えていた。
便所で顔を洗うと、鏡の中ではやっぱり
見た事のないニンゲンがこちらを窺っている。
22.nov.2004
/ Hasselt , Belgium