トハナ
ひさしぶりに朝早く起きたので公園を散歩してると、
今日は地球が動物園の匂いだった。
ん、うんこ踏んだか?思って靴の裏を確かめてみると、
名前を知らない紫色の花が、ぺちゃんこになってひっついていた。
花びらは、地球が始まった時からそこにいたような顔をして
気紛れに早起きした男の靴底で
静かに春の朝のくだらなさを説いていた。
この星を征服したような気になり調子づいて歩いていると、
向こうからおおよそ朝に似つかわしくない二人連れが歩いてきた。
固そうな白い肌をしたその緑色のモヒカンは、
よくホウ酸を染み込ませて火をつけたロウソクを思わせた。
連れてる女は、ミックジャガーその人だった。
『ねえ、煙草もってない?』
ミックジャガーが、話しかけてきた。
黙って2本差し出すと『一本でいいの』と
女は1本をこちらによこし、自分のに火をつけた。
ライター持っとんかい。
イライラした。
ホウ酸ロウソクは、そんなやり取りに気がついていないかのように
ぼんやり、そこいら中を駆け回るリスを眺めていた。
「ピーナッツもあるよ」
なんとなくそう言ってみると、
ロウソクはさして興味もなさそうに空を見上げた。
ミック女が、ロックスター特有のあの笑みを浮かべて言う。
『リスにあげるの?』
ふと、リス達に目をやると
ちちち、という間抜けで乾いた足音をたてて、
こちらを伺うでもなく
そぞろに何かを期待している。
「いや、おれリスあんま好きじゃない」
ロウソクが、初めてこちらをチラリと見た。
あいかわらず何にも喋らなかった。
そしてまたすぐ
まるで週休二日でそうすることを義務づけられてるみたく
なんにもない空に目をやった。
ミックは、ウルトラクイズばりに『?』を
頭上に点灯させた後、なかったことにしようと言わんばかりに
ロウソクをつれ さっさと行ってしまった。
ロックスターから返された煙草にそのまま火をつけて、歩く。
軽薄で高貴な、小さい足音がまだ世界を覆っていたので、
ポケットから取り出したピーナッツを口に放り込む。
もうこいつらにピーナッツやるのやめよう。
諦めたのか 目もくらむスピードで木をグルグル登っていくリスらを、眺める。
今日世界は、動物園の匂いがした。
紫色の花びらを、何べんも何べんも地球になすりつけたので、
明日は悲しい匂いに世界がさんざめくかもしれない。
しかしショっぱいなこのピーナツ。
なんじゃこりゃ。