GATE_9
しつこく呼び鈴を鳴らされたので、また隣のおっさんが金を借りにきたのかと思って無視していると
今度は鬼気迫るコブシの激しいノック。
以前、蹴り開けた経緯のあるドア。
(インキーしてもて、隣のおっさんと二人で次藤君抜きの「スカイラブ・ハリケーン」した)
ので、そんなにハードなノックはやめてほしい。
家の設備にまつわること、大家の壮絶な嫌がりっぷりを思い出す。
無視し続けてドア壊されて、あの生え抜きのドイツセレブに対峙すんの ごめんだ。
のっけから『金は貸さん』を前面に打ち出した表情と態度で、ふてぶてしくドアを開く。
と そこには警察。
なにやらボーイスカウトみたいな格好をした何がしかのスペシャリスト(イメージ)も横に立っていた。
不意な警察の登場に動揺して、いらん疑いをかけられぬよう
『ドアそんなに激しくノックしたら壊れるじゃないですか。何か用ですか?』
とクールに聴こうとすると、クールにしようとしすぎて
『は?』
完全に、友達から煙草1本くれと頼まれたときのテンションで第一声を発する。
まずい。
“ビザまだきれてへんよな、音だって今日はまだ爆音鳴らしてないし、あー昨日遅くに風呂はいったのがまずかったんかな、それか魚焼いた匂いか? や、魚焼いてねーよ、つーかそのスペシャリスト(イメージ)なんだよ、あ!もしかして外人だから派手にテロ的な容疑かけられてんのかなそういえばそうかあれかあれってなんだよ全然テロれてねえよむしろ将来の展望のほうが爆発物だよ”
若干の脳内チキチキ私の清廉潔白会議を開催していると
警察は一枚の紙を突き出した。
『○○という男を知らないか?』
事務的な態度で警察は口を開く。
「知りませんけど。」
『ん。じゃあいい。』
、、、。
はやい。
なんか外人だから聴くのすらめんどくさくなったか。
かまってほしくないけど、かまってもらえないとそれはそれで。
「なんかあったんですか? その男は誰ですか? そして、なぜ僕のところに?
しかもなにそのヒステリックなノック。つか、できれば英語で説明してください。」
『いや、なんでもない。(ドイツ語)』
「なんでもないって。 僕んとこ来たのは、この建物でなんかあったからですか?」
『んーまあそうだけど、この男のことを知らなければいい。』
第一声”知らん”て言うことがそれほど信頼されるなら、警察なんていらんじゃないか。
なんか疑われてるんなら、晴らしときたい。
そんなにキレイな体やないけど、もっとあたいを見て。
幸か不幸か、一瞬で疑い的なものはなくなったっぽい。
というかそもそもハナから疑いでさえないっぽい。
むしろ英語で説明しろ、と言われたこと含め、非常にめんどくさがられているっぽい。
なんか腹立ってきた。
コロンボみたく『あーそうそう、それでね奥さん。』と帰り際にボロを出させる気じゃあるまいか、
と少し期待したものの、あっさり隣の部屋をガンガンノックし始めた。
あー、でてきちゃダメだ、おっさん。
でてこないけど。どうせ。金借りる時以外。
向こう側からだけやない。
胸躍る緊張感や驚きも、外国であるがゆえに一瞬で完了する理解。
ただ、かつてこうして完了する理解は、その終止たる形なす前に孤独に抹消されていた時代があったのだ。
いやいや。
あった、んやない。
纏う匂いこそ違えど
それはこうして今、ここにも。
いつまでも。
そしてそれは決して、ここだから、でもないのだ。
ドアを閉めた後も、隣のベルを鳴らし続ける音が壁越しに聴こえてくる。
やっぱおっさん、出ねえな。
面倒回避のベテラン。(むしろおっさん自身が面倒。)