ジェリー

050908.jpg

 

横切るシロネコ

 

口んとこ、しっぽの先んとこだけが黒かった。

 

なんだかそれはやけにグロテスクな気がして、ぼんやり眺めていた。

 

ネコを含む光景にまとわりつく、イビツで違和感の溢れた匂いを
さして それとも感じさせなかったのは、
シロネコの注意深く、でも落ち着いた所作。

 

緑のなか、目の前を大きく斜めに歩いていく様はとても寛容で、

世界に全く関与していない風な、ネコのありふれた佇まいが妙に居心地悪かったので、

 

「なあ。」と話しかけてみた。

 

ネコは、興味なさそうにこちらに一瞥くれたあと、

カトちゃんみたいに、二度見した。

 

気づいてなかったのかよ。

 

ネコの口許の黒が、緑の上におちる。

 

なんかくわえていたから黒かったのだった。

 

それは別に、驚いたから落としたわけでも、
見つかって何かを諦めたから落としたわけでも、なさそうだった。

 

ネコはじっとこっちを見た。

 

暫くこちらを窺ったあと、色なく視線を戻す。

 

なにかを思い出したわけでもないのに、午後の作意のない景色が、
ネコが歩き始めることの、それらしい理由になった。

 

だからネコはそのグロテスクさだけ、鷹揚な太陽の下に残していった。

 

ネコの口とシッポについていたのは、強くてだらしのない血だった。

 

ぽとりと落としたそこには、頸のないネズミの屍体が杜撰に横たわる。

 

誰もいないエレベーターにすかされた屁みたいに、空々しい殺意とシカバネ。

 

散漫で、ありふれた重要な存在の数々に対し
払うべきは敬意や諦観じみた結論やない。

 

煙草を捨ててもう一回、深く空気を吸い込む。

 

据えた匂いのする緑の風は ゆっくりとカラダの礎になって構成。

 

生き返らない全てによって、無駄に掬われる。

 

「ネズミを獲るネコ」がまだおとぎ話だった頃、
世界は狂気じみた悲しみと失意で溢れかえってた気がする。

 

黒い固まりをよく見ると、それはファニーでキュートな焦げ茶色で
そういったコトでやっとこさ始まった。