ニガツム
微妙な静謐をたたえる、朝の地下鉄ホーム。
8つ分かれた先っちょに 赤・黄の豆電球が点滅する帽子をかぶり
帽子とコーディネイトされたファンシーなつなぎを着たおばちゃんが、
同僚(仕事できそうな普通のOL)に、すごい剣幕でまくしたてていた。
見たあかんものを見たんや、と気をとりなおして電車に乗るも
前に座った男は、全身まっ白けで目のまわりだけ銀色だった。
そぞろにこちらをチラチラ見るなり、
なんらかのリアクションを求められるのなら、
『朝っぱらからフルスロットル』に、敬意のひとつや 鼻すかしな引導のひとつも渡せる。
未来パンダ、素(す) 。
むしろ なにか明日を憂うような
アンニュイでどんよりした佇まい。
ナナメ後ろではあいかわらず、
頭の先っちょが8つに分かれて チカチカしてるおばちゃんが
変わらぬテンションで、同僚の仕事態度を責める。
情報と感情の渋滞。
うしろめたさ?
知らずに悪い事してたんなら あやまるから、
無言で、世界から除籍するのはやめてください神様。
目の前の土星人に、
『おまえ、突っ込まれたくないなら、突っ込まれる可能性を十二分に秘めたうえに
あたかもそれに気づかぬサマで、あるいはそんなメンタリティで生きるみたいなの、
統制された法治社会として厳然と機能してる表舞台でなく、
宗教の勧誘みたく、もっとひっそりやれよ、ややこしいから』
とか言いたかったけど、そもそも頭んとこの「突っ込み」が訳せないし
度胸も器量も甲斐性も優しさも適度に在庫切れで
ただ目のやり場と「その場に自分がいる」っていう在り方に困った。
無論そんな日に、火に注がれるのは油でなくガソリンだった。
向かいの青いアフロ(高木ブーよりふたまわりでかいやつ)のおっさんが、
『きみ、日本から来たの?』
と ” もじもじしながら ” 言った。
アフロがでかくて、青いのに、ナンパだった。
でかくて、青いから?
まあいいや。
この3年、ドイツの暦に、積極的に触れた事がない。
いっつも知らないうちに時計が1時間ずれてたり、
突然あふれるクリスマスマーケットに不意に行く手を塞がれたり、
聞いてない祝日で店が閉まってたり終電がなくなってたりする。
2月。
カーニバル。
毎年だ。この時期、おんなじ気持ちになる。
町に出ると、変人(変人言うたら変人に失礼な変凡人)の狂宴。
魔女と、バイキングと、セサミストリートと、でかいアフロと、病人、ゾンビが溢れている。
こうなると普通のヒトも変に見えたり、
もとから変なヒトも『それ用』に見えたり、
たとえばちょっとセンスが悪い人に、
「あら奥さんもカーニバル?」的な失言をして
今後の社会生活に影響を及ぼしたり、
普通の神父に「あんた今日ロザリオでかすぎ!しかも木ーて。ゲラゲラ。」言うて
バチカンに訴えられたり、
大変なのである。
化粧が濃いおばちゃんがいまいちインパクトにかけたり、
意外と寛容な気持ちになれたりもする。
ビールにまみれ、大声で笑う金星人たちも
売られたケンカは買ったけど、それは色黒な人間差別もはいってた木星ハク人も
サッカーフラッグにくるまって、ゴロゴロ幼児回帰にいそしむ水星人も
きっと2月を生きるのに必死なんだろう。
太陽が出ないから、CDを頭の巻き毛にからめて、ピカピカしてたのだ。
パタパタママか。
昼の打ち合わせ、晩のスタジオのあと
夜中に帰宅すると、プロジェクト関連の腹立つメール。
カズ氏に連絡すると、見解が豪快に一致。決別の長文メール返信。
カズ氏に転送したらexcellent!!!!!!!!!!!!!!!というアメリカ人みたいなメールが返ってくる。
負けてられない。
所信表明に明日、青いアフロ(小さめ)手に入れよう。
頭蓋骨の内側と周辺だけカーニバル。
果てが見当もつかない2月に備えて。