アンディ

早起きしたので、

朝っぱらから じいさんよろしく散歩。

地下に下る階段の手前で、うば車を持て余す母親に声をかけられる。

 

『ねぇ、ちょっと手を貸してくれない?』

 

地下鉄のホームまでベビーカーを担ぐ。

 

ありえへんくらい、重い。

 

運動不足がたたって、生来の もやしッコに磨きがかかったのか。

ただ普段から質量のある機材を持ち運んでるので、

こと「重いもの」に関して、ちょっとは明るいはずだった。

 

、、それにしても、重い。

なんだこれは。

 

おどり場で、赤ん坊ごとベビーカー放り投げたろかと

理性の扉を開放しかけた時、ベビーカーについたカゴから、「ゴトッ」て音がした。

 

「ゴトッ」、、、。

 

クマのアップリケのついたそのベビーカーには、おおよそ似つかわしくない無愛想なトーン。

おばちゃん、、、かごん中、、、、。

 

満身創痍で地階のホームに辿り着くと、

おばちゃんは、さも興味なさげに「ダンケ」と言って、

とっとと行ってしまった。

 

よう見たら、自分の8倍くらいはパンチ力ありそうな立派なガタイをしていた。

 

これは新しい世界の新しい罰ゲームだ、と

偽善心が もたらす程よい恍惚を打ち砕かれたホウケづらの自我に、言い聞かす。

 

むやみやたらと、早起きなんてするもんじゃない。

 

天気がいいので、そのままアンディウォ−ホールの後期の展覧会に行く。

「30 のおもちゃ」という作品の前に座って ぼんやり眺めてると、

中年の闊達とした女の人が、幼な児を連れて展示ブースにやってきた。

 

『ほぅら、かわぃぃわね! ごらん!!』

 

おばちゃんは、満を持して同作品を見せたかったらしく、

うわずる声は 的を外したキューピッドの悲鳴みたくテンション高かった。

 

その子はずっと、こっちを見ていた。

『そのヒトじゃないわよ』 おばちゃん、困ったように微笑む。

「えへへ」 しまりのないテレ笑いしてると、

子供は、さも珍しい発見をしたように手を叩いて笑った。

 

子供の首をムリヤリ絵に向けようとしても、起き上がりこぼしのように

こちらを向くその子に、おばちゃんは苦笑って肩を竦めた。

 

「そっちがいいのね、、。この子、人間好きなの」

 

早起きしたかいあって、アンディから白星奪取。

勝因は、ゾンザイな朝仕度に因をなす剃り残しか?

 

一周まわった出口ちかくで、アンディウォ−ホールフィルムを上映していて

ちょうど、ずっと観たかった “HEAT” だったので、寝っころがって眺めていると、

最後のグダグダなオチに、おもわずやられてしまう。

 

絶妙な「金かえせ」感。 沈黙の「なんじゃそりゃ」がブース内を駆け巡る。

最高。

 

さきほどの白星、あっというまに零れおちる。

これだから、早起きなんてするもんじゃ、、(以下繰りかえし)